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大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)11号 判決

原告 田孝良

被告 法務大臣

代理人 恒川由理子 田中泰彦 ほか七名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して平成七年一月一二日付けでした在留期間更新不許可処分(以下「本件処分」という。)を取消す。

第二事案の概要

一  本件は、韓国籍を有し、日本人の配偶者等の在留資格で在留資格を取得し、更新許可を得て本邦に在留してきた原告が、被告により在留期間更新不許可処分(本件処分)を受けたことに対し、右処分は裁量権を逸脱した違法な処分である等と主張して、その取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、昭和三〇(一九五五)年四月五日、韓国仁川直轄市東区花水洞五八番地において、田仲培(父)、趙之粉(母)との間に出生した韓国籍を有する女性である。

2  原告は、中学校を卒業後、当時離婚していた母の許に身を寄せ、内職工や水商売等をしていた。

原告は、一九歳のとき、韓国人洪ワォンピョンとの間に娘洪秀(昭和四九(一九七四)年一二月一四日生まれ、以下「洪」という。)をもうけ、昭和五八(一九八三)年二月七日に韓国人魚鳳善と婚姻したが、昭和六一(一九八六)年三月二〇日に同人と離婚した。

原告は、右離婚後、日本国籍を有する阪井智昭(昭和二九年七月三〇日生まれ、以下「阪井」という。)と交際し、阪井が前妻と昭和六二年七月六日協議離婚をした後、同年八月五日に同人と婚姻し、同月一七日に洪を阪井の養子として入籍させた。

3  原告は、昭和六二年九月八日、平成元年法律第七九号による改正前の出入国(管理)及び難民認定法(以下「旧法」といい、現行法を「法」という。)四条一項四号所定の「観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これに類似する目的をもって、短期間本邦に滞在しようとする者」の在留資格で上陸の許可を受け、本邦に入国した。

原告は、昭和六二年一二月三日、右の在留資格から、「日本人の配偶者又は子」の在留資格(旧法四条一項一六号及び平成二年法務省令第一五号による改正前の出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「旧規則」という。)二条一号への変更を内容とする在留資格の変更の許可を得た。

原告は、右の在留資格で在留期間の更新許可を二回受けたが、平成元年二月四日、阪井と協議離婚し、同日洪も阪井と協議離縁した。原告は、平成元年一二月一日、希望する在留資格欄空欄のままの書面(〈証拠略〉)を提出して在留資格変更の申請をし、これに対し、被告は、平成二年二月二七日、旧法四条一項一六号及び旧規則二条三号による出国の準備としての在留資格に変更することを許可し、その在留期間を六月とした。

4  原告は、同年四月五日、日本国籍を有する高木鎭夫(昭和七年一二月一三日生まれ、以下「高木」という。)と婚姻するとともに、洪を同日付けで高木の養子として入籍させ、同年五月一日、高木との婚姻を理由に日本人の配偶者又は子の在留資格(旧法四条一項一六号、旧規則二条一号)への変更の許可申請をした。被告は、同年七月二六日、右の許可をし、その在留資格を六月とした。

その後原告は、右の「日本人の配偶者等」の在留資格で、在留期間の更新許可を繰り返し受け、その在留期間は、右変更後三回目の在留期間の更新許可時に一年に伸長されて、同じく在留期間一年のまま平成四年一一月二四日、四回目の更新許可を受けて、在留期限は平成五年一二月三日までとなった。

5  ところで、原告は、その間、平成三年九月、異母妹の田明玉(以下「明玉」という。)が長期の在留資格を取得できるよう企図し、暴力団倉本組内倉仁会会長津田智加良に偽装結婚の相手方を報酬一五〇万円で探してくれるよう依頼して日本国籍を有する仲一美の紹介を受け、明玉と原告らは、仲及び津田と共謀して、平成三年一一月二二日、明玉と仲には婚姻する意思もないのに、右両名が婚姻した旨の内容虚偽の婚姻届を和歌山市役所に提出して受理させ、仲の戸籍簿に同人と明玉が婚姻した旨の不実の記載をさせた(以下「本件犯行」という。)。原告は、平成五年二月、本件犯行により逮捕され、同年三月五日、和歌山簡易裁判所において、公正証書原本不実記載・同行使罪により罰金二五万円の略式命令を受け、その後これは確定した。

6  原告は、平成五年一一月五日、希望する在留期間を一年として、在留期間の更新申請をした。被告は、原告の従前の在留期間満了日である平成五年一二月三日を約八か月経過した平成六年八月九日、在留期間を平成六年六月三日までとする在留期間の更新を許可するとともに(〈証拠略〉)、原告に在留期間の更新の申請をさせ、同日、平成六年一二月三日までの在留期間更新の許可をした。

7  原告は、平成六年一一月一八日、高木との同居を理由として、希望する在留期間を空欄のままの書面により在留期間の更新申請(以下「本件申請」という。)をしたところ(〈証拠略〉)、被告は、平成七年一月一二日付けで、法二一条三項に基づき、「入管法第二一条第三項の規定による在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がない。」として、右申請を不許可とする旨の本件処分をして、原告に通知した(〈証拠略〉)。

三  被告の主張

被告は、本件申請に対し、以下の事情を考慮し、原告の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないと判断した。右判断の基礎とされた重要な事実に誤認はなく、右判断が事実の基礎を欠いたり、事実に対する評価が明白に合理性を欠くことはない。本件処分は社会通念上著しく妥当性を欠くものではないことは明らかであり、被告の右判断に裁量権の逸脱又は濫用はない。

1  原告は、和歌山市新在家一二一番地の一所在のマンション(以下「新在家のマンション」という。)に、高木は同市西庄三三八番地の五所在の高木所有の家(以下「西庄の家」にそれぞれ居住しており、両者は同居していない。原告は、週一回程度の頻度で西庄の家に寄るが、高木は、原告に生活費を渡しておらず、社会通念に照らして夫婦が別居する合理的な理由もないから、原告と高木との間には夫婦としての同居協力の実態が全くない。また、高木は、原告の在留期間更新が認められなければ、原告を韓国に帰国させる意思であると実の娘に話した。

高木は、平成二年四月に原告と婚姻した後、新在家の家に居住しているように、被告側に見せかけるため、数回繰り返して、住民票の住所を原告の在留期間更新の申請の前に西庄から新在家に移し、更新許可の後に西庄の家に戻した。

このように、本件処分時において、原告と高木とは、同居しておらず、互いに協力して扶助し合う関係にもなかった。したがって、原告は、日本人の配偶者としての活動を行っているとはいえず、そもそも原告には在留資格該当性がない。

2  本件犯行は、原告が積極的に、津田智加良に対して明玉の偽装結婚の相手方を探すよう働きかけたものであり、原告は、そのほか、明玉を自らの経営する「銀河水(ウナス)」で不法就労させるなどしたもので、その態度は出入国管理秩序を無視するものである。

3  原告は、前記1のとおり、西庄の家に居住していないにもかかわらず、平成五年一二月一三日付けで外国人登録上の居住地を「和歌山市西庄三三八番地の一」に変更した上、平成六年二月一〇日付けでその表示の訂正をし、本件申請に際しても、日本における居住地として西庄の家の所在地を記載し、高木と同居するため西庄の家に転居した旨を記載した転居理由書を添付し、被告側にその居住地を偽った。

四  原告の主張

以下のとおり、原告と高木は婚姻意思に基づく有効な婚姻をし、同居生活を継続してきたものであり、その婚姻生活において、原告の在留期間更新を妨げるような特段の事情は存しないから、本件処分は、次のとおり、判断の基礎となった重要な事実を誤認し、原告の前科に対する評価を誤り、更に、本件処分の際考慮してはならない事情さえも考慮してされたもので、裁量権を逸脱した違法な処分である。

1  原告と高木は、平成五年一二月ころまで新在家のマンションで一緒に暮らしていたが、その後西庄の家に転居することとなり、転居後約一〇日間は西庄の家で同居生活をしたが、猫を飼うのが好きな高木に対して原告は猫アレルギーであったうえ、西庄の家は古く、台所、便所等が原告には生活をする上で不便であったことなど原告と高木のライフスタイルの違いから、原告は新在家のマンションに戻った。その後、高木が西庄の家で生活し、原告が車で約一五分離れた新在家のマンションで生活し、週に少なくとも一、二回、互いの家を車で行き来し、食事に行ったり、寝泊まりし、肉体関係を持つというような夫婦生活を続けている。高木は自分の退職金で原告の借金を払い、原告が韓国クラブを閉店してからは年金の半分を原告に渡している。原告夫婦は、一緒に暮らしているとけんかになることが多いが、互いに一定の距離を置き、行き来しながら生活するほうが夫婦生活としてはうまくいくので、現在もこの生活を送っている。原告と高木は、将来は互いに一緒に暮らす意思があり、高木が高齢になり弱ってきたら、原告が高木の面倒をみるつもりである。

2  本件犯行等の原告の行状は、すでに平成六年八月九日の在留期間の更新許可の判断の際に評価されており、本件処分の際には考慮することができないものであり、実際にも考慮されていない、しかも、本件犯行の動機は、原告が、韓国で病気の母をかかえて苦労をしている異母妹の明玉から延原という恋人とどうしても別れたくないと頼み込まれ、それを不憫に思い明玉の手助けをしたものに過ぎない。

3  本件申請に当たり、その手続を代行した高木は、右1のような状態も同居と解して申請したもので、虚偽の申請をする認識はなかった。

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実に加え、〈証拠略〉によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、和歌山市内のスナック「ラウンジLEE」でホステスとして稼働していたが(同店の食品衛生営業許可は原告が取得。〈証拠略〉)、平成元年ころから客として知り合った高木と交際するようになり、平成二年四月五日婚姻し、同年六月一七日、和歌山市内で高木の親族や同僚ら約三〇名の出席の下に結婚式も挙げて披露宴も行った。

2  高木は、それまで和歌山市内の西庄の家に一人で居住し、住友金属工業株式会社に勤務していたが、原告と結婚した後、原告が所有し居住していた和歌山市内の新在家のマンション(パレロワイヤル四ヶ郷二〇三号)に移り住み、同所で原告及び原告の娘で高木の養子となった洪と同居するようになり、高木もその住民票を同所に移転する手続をした(原告の住民票上の住所は、平成元年三月一五日以来新在家のマンションであった。)。高木は、時折、もとの西庄の家に戻って飼猫に餌を与えたりしていたが、以前同様に住友金属工業に勤務して原告に生活費を渡し、原告はホステスを続け、原告と高木は、夫婦として同居生活を続け、洪は、同所から大阪市内の高等学校へ通学していた。

3  しかし、原告と高木との夫婦関係は当初から円満を欠き、同居の後間もなく(遅くとも平成三年四月ころまでに)、高木は、原告を新在家のマンションに残したまま同所を出て、再び西庄の家に戻って単身で生活し、原告とは別居するようになった。ただし、新在家のマンションと西庄の家とは、同じ和歌山市内で乗用車で片道一五分から三〇分の距離にあるところ、原告は、高木と別居して西庄の家で単身で生活するようになった後も、ほぼ一週間に一度の頻度で互いにその乗用車等で行き来して連絡を保っていた。原告は、平成二年一一月二七日から和歌山市内の韓国クラブ「ウナス」を経営するようになったが、その開店資金は、高木がその所有にかかる和歌山市西庄三三八番地の五の土地建物を担保に金融機関から借り入れた金員で賄った。

4  原告は、平成三年九月、異母妹の田明玉を韓国から呼び寄せ、新在家のマンションに滞在させたが、明玉は、短期滞在の在留資格で本邦に在留しながら「ウナス」でホステスとして稼働するようになった(不法就労、法一九条参照)。原告は、同年一一月ころ、明玉に依頼されて、同女に「日本人の配偶者等」の在留資格への変更が得られるようにするため「ウナス」の常連客であった暴力団員津田智加良に同女の偽装結婚の相手方を探してくれるように依頼し、津田が紹介した輩下の組員であった仲一美が相手方となることになり、津田、明玉及び仲らと共謀して、同女が虚偽の婚姻の届出をして偽装結婚するのに加担した(本件犯行)。そして、明玉は、その後、「日本人の配偶者等」の在留資格を得て、在留期間の更新を二回受けて引き続き本邦に在留した(不法滞在)。しかし、仲が平成五年二月に覚せい罪取締法違反の嫌疑で逮捕されて取調べを受けていた際に明玉との偽装結婚の事実が発覚し、その結果、同年二月一六日までに明玉、津田も逮捕され、原告も、このように明玉の本邦への不法滞在に加担したため、同年二月、公正証書原本不実記載、同行使罪(本件犯行)により和歌山東警察署に逮捕され、同年三月五日、和歌山簡易裁判所で同罪により罰金二五万円の略式命令を受け、その後右命令は確定した。

5  原告は、本件犯行の発覚が契機となって「ウナス」を閉店せざるを得なくなり、同店の関係で残った借入金が約二〇〇〇万円あったが、それは、高木が、住友金属工業を退職した際の退職金で弁済してやった。洪は、平成五年の春に高校を卒業し、フランスに留学することになり新在家のマンションを出た。

6  原告は、平成五年一一月五日、希望する在留期間を一年として在留期間の更新申請をした。

7  被告は、本件犯行が発覚したので、右の在留期間の更新の申請に対しては、今後の原告の在留状況を観察する必要があったので調査を続けていたが、結局、従前の在留期間の満了日である平成五年一二月三日を約八か月経過した平成六年八月九日、在留期間を同年六月三日までとする六月の在留期間の更新を許可するとともに(〈証拠略〉)、原告に再度の在留期間の更新の申請をさせ、同日、同年一二月三日までの六月の在留期間の更新の許可をした。

8  高木は、原告が在留するための手続には積極的に協力する態度であり、それまでの原告の在留期間更新の申請のためには、その都度、入国管理事務所に原告とともに同行し、申請の書面(〈証拠略〉)を原告のために記載してやり、身元保証の書面の作成にも応じていた。また、高木は、自らの住民票を、平成二年一一月五日(第一回)、平成三年五月二〇日(第二回)、平成四年一一月九日(第四回)の原告のそれぞれの在留期間更新の申請に際し、その都度、その前に新在家のマンションに移転し、許可から数か月ないし約一年経過した後にまた西庄の家に戻した(〈証拠略〉)。

9  原告は、平成六年一一月一八日、被告に対し、希望する在留期間を空欄として、高木との同居を理由として本件申請をしたが(〈証拠略〉)、その際、高木は、原告が高木と同居するためその持家に転居した旨の虚偽の内容の原告名義の転居理由書(〈証拠略〉)を原告のために作成してやり、本件申請にはこの書面が添付された。

10  このように、原告と高木との婚姻関係は、婚姻の後わずかで冷却化し、前記のとおり、遅くとも平成三年四月ころからは別居状態が継続していたが、本件申請のころ、完全に両者の愛情が喪失して夫婦関係が破綻した状態ではなかった。

11  被告は、原告と被告との婚姻関係はすでに冷却化しており、両者は別居しており夫婦関係の実態がないこと、それに加えて、原告が本件犯行をして外国人の不法在留に加担したり、不法就労に加担し、さらには、その居所につき高木とともに虚偽の報告をしていること等を考慮して、平成七年一月一二日、原告に対して本件処分をした。

右のとおり認められ、原告本人及び高木の各供述中、原告と高木が平成五年一二月ころまで新在家のマンションで同居生活をしていたとの部分、その後の別居の原因が、主として原告に西庄の家で高木が飼っている猫に原告がアレルギー反応を起こすことであるとの趣旨に窺われる部分、その他の前記の認定に反する部分はいずれも採用できない。

二  前記の事実関係によれば、原告と高木は、有効に婚姻した夫婦であり、婚姻の届出をした当初のころは、その夫婦関係の実態に欠けるところはなかったところ、本件処分当時は、夫婦関係が冷却化してすでに三年以上も別居状態が継続し、夫婦共同生活の実態は極めて希薄になり、その夫婦関係には不可解な部分が多いといわなければならない(別居した後の夫婦関係についての原告や高木の各供述には随所に不可解な部分がある。)。

しかしながら、原告と高木との間は、別居の後も、継続して週一回程度の頻度で相互に行き来があり、完全に両者の愛情が喪失して破綻した状態であるとまではいえず、高木も、原告が本邦に在留することにつき積極的に協力する姿勢であり、本件処分当時、両者の関係は、偽装婚でないことはむろん、夫婦関係の実態が全くなく婚姻が形骸化している状態であるともいえない状態であったことも前記のとおりである。

してみると、本件処分当時、原告の「日本人の配偶者等」の在留資格該当性に欠けるところはなく、夫婦関係が冷却化して別居状態であれば直ちに右の在留資格該当性がないなどとする被告の主張は、事実関係の主張としても法的主張としてもいずれも失当である。

三  ところで、在留期間の更新が許可されるのは、本人に在留資格該当性がある場合においても、被告(法務大臣)が「更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある」と認めた場合に限られるのであり(法二一条三項)、法務大臣が更新の拒否を決するにあたっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健、衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしゃくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないもので、このような判断は、事柄の性質上、被告の広汎な裁量に委ねられており、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのは、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られるものというべきである(昭和五三年一〇月四日最高裁大法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁参照)。

これを本件についてみると、前記の認定事実のとおり、本件処分は、原告と高木がすでに別居してその夫婦関係の実態がないことのみを理由とするものではなく、本件処分当時までの原告の行状、すなわち、原告が、平成三年に異母妹が偽装結婚して不法に本邦に滞在したことに積極的に加担して刑事処分も受け、また外国人の不法就労に加担したこと、本件申請に際してその居住場所を偽ったこと、また、高木とともにその居住場所につき被告側に虚偽の報告をしたこと等の事情がすべて考慮されてされたものである(なお、入国審査官の西尾の証言中にはこれに反する趣旨にも解される部分があるが、右部分は現場の担当者の推測にすぎず、前記の認定を左右するに足りない。)。そして、前記のとおり、原告につき「日本人の配偶者等」の在留資格該当性には欠けるところはないとしても、原告と高木との婚姻関係はすでに冷却化して別居状態も三年以上にわたっていること、しかも、原告は、外国人の不法滞在、不法就労に積極的に加担しており、その上、原告は、その後も高木とともに被告側に夫婦の住居につき正確に届出ず、本件申請に際しても自己の住所につき虚偽の報告をして被告側にその居住関係を把握するのを困難ならしめたもので、これらは被告としてはいずれも出入国管理行政の上で看過し難いところであると考えられることからすると(法二四条四号ルは、「他の外国人が不法に本邦に入り、又は上陸することをあおり、そそのかし、又は助けた者」に対しては、本邦からの退去を強制することができる旨を規定している。)、これらの事情を総合考慮してされた本件処分は、その判断が全く事実の基礎を欠くとまではいえないし、また、右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるともいえないといわざるを得ない。

なお、原告は、本件犯行等の原告の行状は、すでにこれが被告に発覚した後の平成六年八月九日の在留期間の更新許可の判断の際に評価されており、もはや本件処分の際には考慮することはできないと主張する。しかし、前記のとおり、被告は、同日、結局、原告の在留期間の更新を二度にわたって許可したもので、しかも、前判示の事実関係に照らすと、被告としては、原告が他の外国人の偽装婚姻による不法滞在に加担したことから、さらに経過をみて調査の必要があると判断したことによるものと推認され、かような経過があるからといって、被告が、その後の在留期間の更新の許否を判断するに当たって前記の行状を考慮してはならないとまではいえない。原告の右主張は採用できない。

四  以上のとおりであり、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 八木良一 加藤正男 西川篤志)

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